今回は「過払い軒物語」の続編。総量規制についての物語をお届けします。
日本ファイナンスでは2013年から2018年までの5年間、九州地方発行のフリーペーパー「北九魂(旧キタキュウ.ビズ)」でコラムを掲載させて頂きました。
今回は2016年5月号掲載のコラムを再掲させていただきます。
(※公式YouTubeチャンネルにオーディオブック版を投稿しております。ぜひご覧ください。)
【オーディオブック版(前編)】
【オーディオブック版(後編)】
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「過払い軒」は三十年以上も昔から続く老舗のラーメン店。常連客の絶えない評判の人気店でしたけど、ある時からラーメンの、値段の付け方のルールが変わってしまい、昔は二千円だったラーメンの値段も今は四百円に。そのうえ昔に食べたラーメンの代金をお客さんから請求される「過払い代金請求」も次々と起こされてしまって、今ではお店の規模もだいぶ小さくなってしまいました。一時は閉店もウワサされていましたがラーメンの味や接客の方法を見直したこともあって、今でも何とか営業を続けています。
そんな過払い軒に今日もまた、ひとりのお客さんがやってきました。
「いらっしゃい。おや、お客さん久し振りだね。注文はいつものやつでいいかい? 」
「大将おぼえててくれたの? うれしいね。もちろんいつものラーメン定食、百円プラスの麺大盛りでヨロシクね」
「あいよ、お代は六百円ねー… … あちょっと待って。お客さん、今日持ち合わせはどれぐらいだい? 」
「なんだいやぶからぼうに? 千五百円、かな。どうして? 」
「あぁそうか、それじゃあ申し訳ないけど大盛りは出来ないな」
「えぇ、なんだって? 前は大盛りにしてくれたじゃないか」
「そうなんだけどねぇ。ちょっと前にラーメンの値段付けのルールが変わったことがあっただろう? 実はその時に「お客さんから受けられる注文の量」についても新しいルールが決められちまったんだよ」
「何だいそりゃ? それってどんなルールだい? 」
「お客さんの持ち合わせの三分の一を超える金額の注文はとっちゃいけないって内容さ。お客さん、今日の所持金千五百円だろう? そうすると五百円までしか注文できないわけだから、ラーメン大盛りは出来ないわけだ。これを『総量規制』っていうらしい」
「『ソーリョーキセー』? 何だか小難しくてわかんねぇが、それってちょいとおかしな話じゃないか、ええ?そりゃあよ、確かに昔は手持ちのお金に見合わねえぐらい食べちまった奴もいただろうさ。無計画に食べたそいつも節操がねえが、注文されるがままに出したラーメン屋にもやっぱり落ち度があったにちがいねえよ。でもよ、ラーメン屋だって最近じゃしっかりお客の懐ぐらいを確認して注文をとってんだろう? おかげで食べ過ぎるやつも最近じゃめっきり減ってきたってぇ話だぜ。それなのにお客の注文を横一線でピシッと区切っちまうとはどういうこった。そもそもだな、俺は今まで一度だってこの店のお代を踏み倒したこたぁないだろうよ」
「そりゃあもう、いつもご贔屓いただいて、その点については本当にありがたいことだと思ってるよ。お客さんは馴染みの客だしね、わたしも出来ることなら大盛りにしてあげたいんだ。お代だってきちんと払っていただいてるしさ。だけどね、もしもこれがお上に知れちまった日にゃウチはどうなる?最悪の場合、ラーメン屋をたたまないといけなくなっちまうよ。そうなるとせっかくご愛顧いただいてる他の常連の皆さんにもご迷惑おかけしちまうことになっちまうよ」
「まったく、何だか窮屈な世の中になっちまったもんだねぇ。わかったよ、それじゃ今日は大盛りなしのラーメン定食で我慢するさ。その代り早くしてくれよ、このままだと飢え死にしちまうからよ! 」
「あいよー、毎度ありー! 」
これはどこかの国にある、どこかの町のお話。
(執筆者:松原剛)










