一杯のラーメンが過払いになるまで|過払い軒物語(日本ファイナンス寄稿コラム)

コラム

貸金業界に吹き荒れた「過払い金問題」とは何だったのか?今回は「過払い軒」というラーメン店に起きた過払い金問題についての物語をお届けします。

日本ファイナンスでは2013年から2018年までの5年間、九州地方発行のフリーペーパー「北九魂(旧キタキュウ.ビズ)」でコラムを掲載させて頂きました。

今回は2015年11月号掲載のコラムを再掲させていただきます。

(※公式YouTubeチャンネルにオーディオブック版を投稿しております。ぜひご覧ください。)

【オーディオブック版(前編)】

【オーディオブック版(後編)】

==============================

 むかしむかしあるところに、「過払い軒」という名前のラーメン店がありました。お店をはじめてから30年以上、お値段はやや高めでしたが、食べたいときにいつでもお店が開いていて、お店に入ればすぐにラーメンが出てくるスピーディーさが評判をよび、いつも常連客がかよってくる人気店でした。

 ところでこの町にはラーメンの値段のつけ方に2つのルールがありました。ひとつはリー・ゲンホーさんが約百四十年前に作ったリーさんルールで、もうひとつはシュー・シホーさんが約六十年前に作ったシューさんルールです。リーさんルールは「ラーメンの値段は最高4百円まで、4百円を超えた部分は全部無効!」というもの。一方のシューさんルールは「ラーメン店として登録し、店内にきちんとメニュー表を掲示して、お代をいただいた後に領収証をきちんとお渡しすれば、お客さんが納得して払ったのであれば、六百円まではいいですよ」という内容でした。

 リーさんルールはこれまで見直しをされることはありませんでしたが、シューさんルールに関しては、はじめは「2千円までいいですよ」と言っていたものを、千円、8百円、6百円というように、何度か修正されてきました。そして過払い軒を含めこの町のほとんどのラーメン店はシューさんルールに従って営業してきました。ラーメンブームも手伝ってかラーメン店の数は増え、過払い軒にも常連さんがたくさん増えましたが、その一方でこれまでなかった問題もたくさん出てきました。例えばお客さんがいらないと言っているのに無理やりラーメンのおかわりを出す、悪徳ラーメン店の存在や、ラーメンばかりを何度もくりかえし食べ過ぎて、ついにはお代を払えなくなる、多重飽食者問題などです。そしてこの町ではだんだんと「ラーメンの値段が高すぎる!」、「リーさんルールの4百円を超えて払った分は無効だ!」といってラーメン店とトラブルになるお客さんが増えていきました。もちろんラーメン店は「私たちはシューさんルールをきちんと守っている。だから6百円をいただくのはルール違反ではありません」と説明してきました。

 ところがある日、ラーメンどんぶりを底からひっくり返すような、驚きのルール解釈が行われました。それは「シューさんルールの条件には『お客さんが納得して払ったのであれば』とあるが、ラーメン店の店内には「一回でも飲食代金を払えなければすぐに通報します」という注意書きがある。これでは「払わなければ通報される」と、半ば強制的に代金を払わされているのと同じだ。よってこの注意書きがある以上、それでもお客さんが納得して払ったと証明できるものがない限り、これまでラーメン店が売ったラーメンの代金をすべてリーさんルールで計算し直して、もらい過ぎていた代金はお客さんへ返金するように」というものでした。

 これにはラーメン店も困り果ててしまいました。なぜならどのお店にもみんな同じ注意書きを書いていましたし、お客さんが「納得して」代金を払っていた、ということを証明することなんてどうやってできるのでしょう。そもそもこの新ルールは、ラーメンが好きで食べ過ぎたあまり、お代が払えなくなった多重飽食者を助けるためのものでした。しかし新ルールが出来て以来、支払いにとくに困っていないお客さんや、昔よく通ってくれていた常連さんからも「昔食べたラーメンの代金が戻ってくるらしいぞ!」と話題になり、次々と払い過ぎた分のお代を請求されるようになってしまいました。

 過払い軒の店主は昔を思い出しながらつぶやきます。「10年前まではこの町にも100軒のラーメン屋さんがあったのに、今ではウチを含めて10軒だけ。何より悲しいのは新ルールが出来たことで、本来ならお店の財産だった常連さんが、今では大きな爆弾にも見えてしまう。どうしてこんなことになってしまったのか……」。これはどこかの国にある、どこかの町のお話。

(執筆者:松原剛)

タイトルとURLをコピーしました